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目次
Subsections
3. すざく衛星データ概要と解析ルートマップ (SUMMARY AND
ROUTE MAP OF ANALYSES)
3.1 FITS 形式って? (FITS Data Format)
「すざく」衛星は、公共天文台として機能し、国際的な競争力をつけるため、そ
の観測データは、すべて、天文業界標準の FITS(Flexible Image Transport
System)型式に変換され、保存される。最終的には、ISAS/JAXA の DARTS や共同
研究機関である NASA/GSFC の HEASARCグループによって管理され、人類共通の
知的財産として残される。FITS 型式といっても難しいものではなく、図
3.1のように、いろいろなコラム毎の値を複数の Row 詰
めたテーブルに、そのデータの説明として、コラムの意味や、いろいろなキーワー
ドの値を記述したヘッダ(ASCII)がついたファイルである。
図 3.1:
FITS ファイルを閲覧した画面。ヘッダ部とテーブル部のペアが、複数
の extensionとして連なっているのが分かる。一番下表の table part にある
'TIME' や 'YYYYMMDD' が「カラム」名、縦に1,2,3,4..とある列が 「ROW」であ
り、Header part にある 'TIME / Packet edit time'などが各カラムの説明となっ
ている。NAXIS2などは「キーワード」と呼ぶ。この header+table のペアは、一
番上の欄の 'HXD_HK' という「extenstion」を展開したものである。
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3.2 解析に必要な衛星データ(Data Types)
衛星から出力されるデータには、衛星の状態を知るためのデータ(House
Keeping)と、検出器からの観測データ(observation) との二種類がある。さらに、
衛星の姿勢を記述した姿勢データと軌道データ、時刻データを加え、五種類のデー
タを扱うことになる。解析では、さらに、検出器の較正情報が必要となる。これ
は caldb (calibration database) と呼ばれ、検出器チームから供給され、他の
衛星の較正情報とあわせ、GSFC が管理している。これらは全て FITS format で
配布される。
- House Keeping Data
衛星共通系、HXD、XISで、それぞれ、
auxil/aeNNNNNNNNN.hk,
hxd/hk/aeNNNNNNNNNhxd_0.hk,
xis/hk/aeNNNNNNNNNxis_0.hk
といった HK Fits が存在する。
解析の便宜のため、.hk や .ehk ファイルから必要な情報を一つの auxil/aeNNNNNNNNN.mkf というファイルにまとめている。したがって、解析では基本的に .mkf を使用すればよい (もし.mkfに解析に必要な項目が含まれていない場合は、GSFCに依頼して追加する必要がある)。
- Observation data
観測データは hxd/event_uf/aeNNNNNNNNNhxd_0_wel_uf.evt,
xis/event_uf/aeNNNNNNNNNxi[0-3]_0_3x3n030_uf.evt,...というファイル名で配付される。
(XISの3x3030 部はマイクロコード)
- Attitude data
衛星の姿勢ファイル。auxil/aeNNNNNNNNN.att。
- Time data
時刻データ。衛星搭載のデータレコーダに記録されたデータに時刻づけする際などに使用される。
auxil/aeNNNNNNNNN.tim。
- Orbital data
衛星の軌道要素ファイル。auxil/aeNNNNNNNNN.orb
- Extended HK
姿勢ファイルや軌道要素ファイルを元に、衛星の向いている方向が時々刻々とどう変化したか、
また、衛星が飛翔している(地球上の)場所が観測に与える影響がどう変化したか、などを
計算しまとめたファイルが Extended HK file, auxil/aeNNNNNNNNN.ehk である。
auxil/aeNNNNNNNNN.ehk
- caldb
較正情報 FITS。calibration data base の略称。各検出器の較正情報が含まれている。検出器の較正が進めば、あたらしい caldb がリリースされる。
観測者には直接に配付されるのではないので、
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/caldb/ もしくは、
http://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/heasarc/caldb/suzaku/ から手に入れる。
caldb の設定方法は、
http://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/heasarc/caldb/caldb_install.html
を参照のこと。
ここで、配付される観測データ(Observation data)には複数の種類がある。衛星
から出力されるデータを全て含むデータは all event (もしくは SFF,
3.3節参照)と呼び、天体を観測している時間帯のデータだけで
なく、地球を見ている時間帯、SAA 等観測の質が悪い時間帯のデータや、(天体
からのX線ではなく)宇宙線由来のイベントなどが含まれている。いっぽう、
cleaned event とは、これらの不用なデータを破棄したデータを指す。いかにゴ
ミを破棄するか(data reduction)は、検出器の較正がどこまで進んだか等におお
きく依存しており、可能ならば、自分で最新の較正情報(caldb)と較正ツール
(3.3節にある「すざく」ftools)とを用いてリダクションしなお
すのが望ましい。cleaned event からさらに自分の欲しいイベントを抽出する方
法などは、第5章を参照のこと。
3.3 観測データの較正情報の最新化 (Overview of Processing)
3.2節に述べた観測データ(Observation data) は、衛星で観測さ
れたあと、図3.2のようなプロセスを経てFITS化され、較正
情報が付加され、配付される。最初に、衛星の生データを FITS 化しただけのも
のは、First FITS File (FFF)と呼ばれ、較正情報が付加されたものは Secound
FITS File (SFF) と呼ばれる。両者は全く同じ format であるが、FFF の段階で
は、X線の到来時刻や、イベント種別、天空上での座標などといった、較正が必
要なカラムは空欄になっており、それをSuzaku ftools と呼ばれるツール
を通すことで埋めてSFF にする。FFFとSFFのフォーマットが同じであるため、
Suzaku ftools は SFFも入力とすることができる。すなわち、検出器の較
正がすすみ、caldb や Suzaku ftools が更新された場合は、何度でも、
ユーザがSFF をプロセスしなおすことができる。
解析の際には、「すざく」の検出器の較正がどこまで進んだかなどを常に把握す
るように心掛け、できるだけ最新の caldb と Suzaku ftools とをそろえ、
最新の SFF (前節でいう all event) を用意することが大前提となる。参考まで
に、付録 Bに Suzaku ftools を含む解析ツール群
のインストールの仕方と、第10章に、2006年04月現在
のSuzaku ftools のリスト・簡単な説明とを載せておく。
図 3.2:
「すざく」による観測が行なわれたあと、配付データが作成されるま
でのプロセスを示した図。九州 USC にて取得されたデータは SIRIUS というデー
タベースに格納され、mkrpt を経て、Row Packet Telemetry data (RPT) という
生データファイルに変換される。この RPT は生データであり公開しない。同様
に、時刻データ、姿勢データ、軌道データなども生成される。RPT は、
mk***1stfits というツールを用いて、より可読性のある FFF (本文参照) に変
換される。その後、Suzaku ftools を用いて較正情報が付加され、SFF となり、
さらに、余分なゴミデータを除去して、cleaned event となる。
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3.4 標準的な解析 (Route Map of Your Analysis)
図3.2にある、SFF から cleaned event を作成するプロセ
スでは、衛星に依らない「標準のftools」で処理される。SFF から先は、ユーザ
が行なう解析でも、同様に、「標準のftools」で行なうことができる。図
3.3にその概要を示す。
図 3.3:
標準の ftools を用いた衛星データ解析の概要
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3.4.1 イメージを描きたい (Image analysis)
XIS のイメージ解析を行ないたい場合は、xselect (第5章)にてevent
file から image FITS file を抽出し、ds9(第6章)等のツールを用いる。
3.4.2 X線スペクトルをみたい (Spectral analysis)
スペクトル解析を行ないたい場合は、xselect (第5章)にて 波高空間
でのヒストグラムファイル, PI (pulse height invariant) FITS file を作成し、
xspec (第8章) にてスペクトルを解析する。
入射するX線のエネルギー (E) は、検出器から出力される波高値 PHA と対応づ
けられているが、PHA のままでは、検出器のゲインやADC の非線型性等といった
個性がそのまま見えるので、こうした情報を補正し、個性を無くしたものが PI
である。PI と E の関係は、必ずしも 1:1 対応ではなく、有限のエネルギー分
解能でなまされ、また、低い PI 側に構造がでたりする。この E と PI の関係
を記述したファイルをレスポンスファイル (rsp)と言う。また、PI FITS file
にはバックグラウンドも含まれているので、バックグラウンドに相当する PI ヒ
ストグラムを差し引いて解析を行なう必要がある。つまり、X線スペクトルを解
析する上で必要なファイルは、

観測した PI FITS
file

Background PI file

レスポンスファイル
(rsp, or arf and rmf)
の三点セットである。
これらがそろった段階で、xspec を用いた解析ができる。実際の検出器では、PI
file に、レスポンス関数の逆行列をかけて、天体の放射スペクトルにもどす事
は原理的に不可能なので、物理的に意味のある放射モデルを仮定し、その放射モ
デルにレスポンス関数を掛け合わせてできる PI 分布と、実際に観測された PI
分布とを比較することで、天体の放射スペクトルを推定する。これを fitting
と呼ぶ。詳細は、第8章にある。
3.4.3 ライトカーブをみたい (Check light curve, and timing analysis)
ライトカーブをチェックしたい場合は、xselect (第5章)にてevent
file から light curve (lc) FITS file を抽出し、ソフト lcurve にて描くこ
とができる。実際の解析では、こうして描いたライトカーブをみて、太陽フレア
や粒子線起原のフレアアップなどが無いか、検出器がおかしな動作をしていない
か、などを必ずチェックして欲しい。必要ならば、xselect に戻っ
て、不用と考えられる時間帯のデータを破棄する、などの処理を行なう。
lcurve というコマンドは、標準ツールのなかでも、XRONOS (第7章)
とよばれる時系列解析ツール群の一種である。XRONOS には、パワースペクトル
を書くコマンド powspec や、周期的な変動を探査するコマンド efserch、周期
で畳み込んだライトカーブを描く efold などがある。
以上の三種の解析(イメージ,スペクトル,時系列)は基本技である。第
4章では、これらの基本技のwalk through を、XIS, HXD につ
いてもうすこし具体的に示している。
これらの基本技をマスターし、組み合わせることで、
場所毎のスペクトルを解析したり、
エネルギー毎のイメージを描いたり、
phase 毎のスペクトルを描いたり、
場所毎に周期性探査をしたり、
といった解析ができるようになる。第5章以降では、標準的な各ツール
について、より詳細な解説を載せているので、自分で組み合わせて使ってみて欲
しい。
Next: 4. とりあえずやってみよう (WALK THROUGH
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平成21年8月20日