天体のデータ解析を始める前に、観測機器についてよく知っておかないと、間違っ た結果を導くことになりかねず危険である。この章では、すざく衛星に搭載され ている検出器の紹介と、その性能についてまとめる。
XRT | 焦点距離 | 4.75 m |
視野 (FWHM) | ![]() ![]() |
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Plate scale | 0.724 arcmin/mm | |
有効面積 |
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角分解能 | ![]() |
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XIS | 視野 |
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エネルギー帯域 | 0.2-12 keV | |
有効画素数 |
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1画素のサイズ |
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エネルギー分解能 | ![]() |
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有効面積(XRT-I込み) |
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時間分解能 | 8 s (Normal mode), 7.8 ms (P-Sum mode) | |
HXD | 視野 | ![]() ![]() ![]() ![]() |
エネルギー帯域 | 10-600 keV (PIN 10-70 keV, GSO 40-600 keV) | |
エネルギー分解能 | PIN ![]() ![]() |
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有効面積 |
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時間分解能 | ![]() |
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HXD-WAM | 視野 | 2![]() |
エネルギー帯域 | 50 keV - 5 MeV | |
有効面積 | 800 cm![]() ![]() |
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時間分解能 | 31.25 ms for GRB, 1 s for All-Sky-Monitor |
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「すざく」のX線望遠鏡 (XRT) は、「あすか」のXRTよりもひとまわり大きいも ので、口径40 cm、焦点距離 4.75 mのXRT-I (焦点にXISを置くもの)が4台と、 口径 40 cm、焦点距離 4.5 mのXRT-S (焦点にXRSを置くもの)が1台ある (外観 と配置は図 2.4)。反射鏡は、アルミ薄板にレプリカ法で鏡 面を形成したレプリカミラーをそれぞれ175および168枚同心円状に並べて、小 型超軽量だが高い効率のX線望遠鏡を構成している。この望遠鏡では光学系とし て、双曲面と放物面からなるWolter I型と呼ばれるものを円錐2段で近似して用 いている (図 2.3)。
レプリカ法の導入により鏡面形状精度が向上し、「あすか」に比べ約2倍優れた
角分解能 (HPD)を達成した。また、焦点距離が長くなったことで、平
均の斜入射角が小さく、エネルギーの高い側での反射率が2倍 (@6 keV)程度向上
した。「すざく」では、反射鏡の上にプリコリメータを加えることにより、多重
薄板X線望遠鏡の問題であった迷光2.3を約1桁減少させた。
XRT-I + XIS検出器で点源を観測すると、X線望遠鏡の特性(応答)により、ある広
がりをもったイメージとして捉えられる (図 2.5上)。
これを方位角方向に平均化し、点像であるべき天体の像がその望遠鏡システムで
どのように結像されるかを示した関数がPoint Spread Function(PSF)である(図
2.5下)。また、観測できる空の領域は、XRTと焦点面検
出器の相対的な位置関係によって決まる。XRT-Iの光軸の位置2.4 とXIS検出器の中
心の相対的な関係を図 2.6に示す。光軸の位置は検出器の中
心と完全に一致はしていないが、4台とも約以内に入っている。
Suzaku/XRT-I | ASCA/XRT | |
台数 | 4 | 4 |
焦点面距離 | 4.75 m | 3.5 m |
直径 | 399 mm | 345 mm |
重量(一台あたり) | 19.5 kg | 9.8 kg |
鏡面 | Au | Au |
鏡面数(一台あたり) | 1400 | 960 |
入射角 |
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角分解能(HPD) | ![]() |
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X線検出に用いられるCCD2.5は、半導体検出器を2次元アレイ状に並べたものといえる。CCDのある画素にX線
が入射すると、ある確率で光電吸収が起こる。その結果生じた光電子はエネルギー
を失うまで次々とSi原子と衝突を繰り返し、電子・正孔対を作る。生じる電子・
正孔対の数は、入射X線エネルギーに比例し、およそ
個とな
る(ここで、
はSiの平均電離エネルギー
eV)。こうして
できた電子の集まり(一次電子雲と呼ぶ)を正確に検出することによって、入射X
線エネルギーを知ることができる。また、検出器の位置分解能は画素の大きさ
(XISでは
)によって決まり、比例計数管(およそ
)と比べて優れている。入射X線は空乏層内2.6で吸収されなければ正確なエネルギー測定ができないため、高いエネル
ギーのX線の検出効率を上げるには、空乏層を厚くする必要がある。
「すざく」のXISは4台のX線CCDカメラから構成され (図 2.7)、
天体の撮像とX線スペクトルの取得を目的としている。「あすか」に搭載された
CCDカメラ (SIS) に比べて、空乏層の厚さが2倍になったため、高エネルギーの
X線に対する感度が向上している ( keVで約2倍)。また、CCDの動作
温度を
まで下げたことで暗電流を押さえ、電荷転送非送
率 2.7 を減少させるなど、様々な工夫が
なされている。
XISの4台のセンサーをそれぞれX0, X1, X2, X3と呼ぶ。また、CCDには表面照射 型 (Frontside Illuminated; FI)と裏面照射型 (Backside Illuminated; BI)が ある (図 2.8)。表面照射型CCDではX線を電極側から入射するた め、低エネルギーのX線は電極や絶縁層で吸収されてしまうのに対し、裏面照射 型CCDではX線を電極の逆側から入射するため低エネルギーのX線に対して高い検 出効率を得ることができる。X0, X2, X3の3台がFI-CCD、X1がBI-CCDである。 図 2.9 にXISの模式図を示す。
XISの観測モードは、ClockモードとEditモードという異なる2つのモードから定 義される。Clockモードには、NormalとParallel-sum (P-sum)の2通りがある。
X線の入射により生成された電子雲は一つのピクセルにとどまる場合と、ピクセ
ル境界付近に入射して2つ以上のピクセルにまたがる場合とがある。そこで、
XISでは中心が最も波高の高いピクセルに注目して、スプリットの仕
方で7通りのグレードに分類する2.11。そのうち、解析に用いら
れるのはNormal/Burstモードでは、グレード0,2,3,4,6、P-sumモードでは、グ
レード0,1,2である。
XISでは軌道上でのエネルギーの絶対精度の測定のために、カメラごとに較正線
源が取り付けられている 。線源はいずれもFe (半減期2.7年) で、Mn
K
(5.9 keV)、Mn K
(6.5 keV)の特性X線を出す。較正線源の位
置については、図 2.2に示した。
HXDセンサーの構造を図 2.11に示す。基本となる井戸型フォ スイッチカウンターは16本あり(Wellユニット)、その周りをBGO結晶のアンチカ ウンター(Antiユニット) 20本が取り囲む。Wellユニットの主検出部はPIN型半 導体検出器(厚さ2mm)とGSOシンチレータ(厚さ5mm)を上下に重ねた形で構成され、 10-700 keVという広帯域を実現する。さらにXISと組み合わせると、一つの衛 星で3桁を超えるエネルギー帯域が同時にカバーされることになる。また、主検 出部の周りのシールド部には深い井戸型をしたBGOシンチレータが用いられてい る。主検出部とBGOの反同時計測により、効率よくバックグラウンドを除去する ことができる。各ユニットについて簡単にまとめる。
なお、HXDの光軸はXIS nominal positionに対してDETX方向にずれている。
BGOの井戸部はアクティブコリメータの役割を持ち、視野を
に絞る。井戸部にはリン青銅製パッシブファイ
ンコリメータが挿入されていて、これが入射角の大きなX線を吸収し、低エネル
ギー側では視野は
に絞り込まれる。