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2. 搭載されている検出器 (SCIENTIFIC INSTRUMENTS)

天体のデータ解析を始める前に、観測機器についてよく知っておかないと、間違っ た結果を導くことになりかねず危険である。この章では、すざく衛星に搭載され ている検出器の紹介と、その性能についてまとめる。

2.1 概要 (Overview)

すざく衛星には5つの軟X線検出器と1つの硬X線検出器が搭載されている。軟X 線望遠鏡は、5つのX線反射鏡(X-ray telescope; XRT)と5つの焦点面検 出器(4つのXIS検出器と1つのXRS検出器)からなる。XIS (X-ray Imaging Spectrometer) はX線CCDカメラで、0.2-12 keVのエネルギー帯域をカバーし、 典型的なエネルギー分解能は130 eVである。XRS (X-ray Spectrometer) はX線マイクロカロリメータで、エネルギー帯域はXISと同程度、典型的なエネ ルギー分解能は6 eVである。残念なことに、2005年8月8日、XRSで使用している 液体ヘリウムが消失するという事故が発生し、XRSによる観測は不可能になった。 さらに高いエネルギー(10-700 keV)のX線を観測するために開発されたのが硬 X線検出器(Hard X-ray Detector; HXD)である。「すざく」ではXIS4台と HXDで同じ天体を同時に観測することができ、広いエネルギー帯で高感度のX線分 光が可能である。特に、(1) 硬X線領域(10-300keV)においてこれまでで最高 の感度、(2) 軟X線領域(0.3-1 keV)で、これまでのCCDカメラに比べて高い感度 と分解能、を実現している。各検出器の特徴や性能を表  2.1に まとめる。衛星上での検出器の配置は図  2.1に示した。


表 2.1: 「すざく」に搭載されている観測機器の概要
XRT 焦点距離 4.75 m
  視野 (FWHM) $17'$@1.5 keV, $13'$@8 keV
  Plate scale 0.724 arcmin/mm
  有効面積 $440~{\rm cm^2}$@1.5 keV, $250~{\rm cm^2}$@8 keV
  角分解能 $2'$ (HPD 2.1)
XIS 視野 $17'.8\times17'.8$
  エネルギー帯域 0.2-12 keV
  有効画素数 $1024\times1024$
  1画素のサイズ $24~{\rm\mu m}\times24~{\rm\mu m}$
  エネルギー分解能 $\sim 130$ eV @ 6keV
  有効面積(XRT-I込み) $340~{\rm cm^2}$(FI), $390~{\rm cm^2}$(BI) @ 1.5 keV
    $350~{\rm cm^2}$(FI), $100~{\rm cm^2}$(BI) @ 8 keV
  時間分解能 8 s (Normal mode), 7.8 ms (P-Sum mode)
HXD 視野 $34'\times34'$ ( $\lesssim 100~{\rm keV}$), $4^{\circ}.5\times4^{\circ}.5$ ( $\gtrsim100~{\rm keV}$)
  エネルギー帯域 10-600 keV (PIN 10-70 keV, GSO 40-600 keV)
  エネルギー分解能 PIN $\sim 4$ keV(FWHM), GSO $7.6/\sqrt{E_{\rm MeV}}$ %(FWHM)
  有効面積 $\sim 160~{\rm cm^2}$@20 keV, $\sim 260~{\rm cm^2}$@100 keV
  時間分解能 $61~{\rm\mu s}$
HXD-WAM 視野 2$\pi$ (non-pointing)
  エネルギー帯域 50 keV - 5 MeV
  有効面積 800 cm$^2$ at 100 keV / 400 cm$^2$ at 1 MeV
  時間分解能 31.25 ms for GRB, 1 s for All-Sky-Monitor

図 2.1: 衛星上での各検出器の配置 (Astro-E2 実験報告書より)。なお、「す ざく」ではいくつかの座標系が用いられる。図中のS/C X, S/C Yは衛星座 標系、DETX, DETYは検出器座標系である。この他に、観測時の衛星姿勢を考 慮して、赤道座標系に投影したのがSky座標系(X,Y)である。Sky座標系を用い ると、異なる検出器で得られたイメージを足し合わせることができる。
\includegraphics[width=0.8\textwidth]{figs/det_layout.eps}

図 2.2: XISの座標系と較正線源の位置 (Astro-E2 XIS Science FITS確認書 より)。この図はXISから望遠鏡を見上げた図になっていることに注 意。なお、RAW座標系(RAWX, RAWY)とActual座標系(ACTX, ACTY)はXISに特有 の座標系である。
\includegraphics[width=0.8\textwidth]{figs/det_xis_cal.eps}

2.2 XRT

X線は物質中で強く吸収され、屈折率が1よりわずかに小さいという特徴を持つ。 このことはX線の光学系を作る上で、屈折レンズが作れないこと、反射鏡は全反 射2.2のみが利用できることを意味する。しかも 屈折率の1からのずれが非常に小さいため、全反射は鏡面すれすれの角度の光線 に対してのみおこる。例えば光子エネルギー数keVのX線が金の鏡面で全反射する のは鏡面から1 度以下の入射角に限られる。この角度はX線のエネルギーが高く なるほど小さくなる。このような性質から、X線望遠鏡は全反射鏡と呼ばれる特 殊な反射鏡を用いる必要がある。実際に日本で第4番目のX線天文衛星「あすか」 にも金の全反射鏡を使った望遠鏡が搭載された。

「すざく」のX線望遠鏡 (XRT) は、「あすか」のXRTよりもひとまわり大きいも ので、口径40 cm、焦点距離 4.75 mのXRT-I (焦点にXISを置くもの)が4台と、 口径 40 cm、焦点距離 4.5 mのXRT-S (焦点にXRSを置くもの)が1台ある (外観 と配置は図 2.4)。反射鏡は、アルミ薄板にレプリカ法で鏡 面を形成したレプリカミラーをそれぞれ175および168枚同心円状に並べて、小 型超軽量だが高い効率のX線望遠鏡を構成している。この望遠鏡では光学系とし て、双曲面と放物面からなるWolter I型と呼ばれるものを円錐2段で近似して用 いている (図 2.3)。

図 2.3: Wolter I型X線反射鏡 (山下朗子 修士論文より)
\includegraphics[width=0.6\textwidth]{figs/det_xrt_wolter.eps}

レプリカ法の導入により鏡面形状精度が向上し、「あすか」に比べ約2倍優れた 角分解能 (HPD$\sim 2'$)を達成した。また、焦点距離が長くなったことで、平 均の斜入射角が小さく、エネルギーの高い側での反射率が2倍 (@6 keV)程度向上 した。「すざく」では、反射鏡の上にプリコリメータを加えることにより、多重 薄板X線望遠鏡の問題であった迷光2.3を約1桁減少させた。

XRT-I + XIS検出器で点源を観測すると、X線望遠鏡の特性(応答)により、ある広 がりをもったイメージとして捉えられる (図 2.5上)。 これを方位角方向に平均化し、点像であるべき天体の像がその望遠鏡システムで どのように結像されるかを示した関数がPoint Spread Function(PSF)である(図  2.5下)。また、観測できる空の領域は、XRTと焦点面検 出器の相対的な位置関係によって決まる。XRT-Iの光軸の位置2.4 とXIS検出器の中 心の相対的な関係を図 2.6に示す。光軸の位置は検出器の中 心と完全に一致はしていないが、4台とも約$1'$以内に入っている。


表 2.2: XRT-Iの性能
  Suzaku/XRT-I ASCA/XRT
台数 4 4
焦点面距離 4.75 m 3.5 m
直径 399 mm 345 mm
重量(一台あたり) 19.5 kg 9.8 kg
鏡面 Au Au
鏡面数(一台あたり) 1400 960
入射角 $0^{\circ}.18-0^{\circ}.60$ $0^{\circ}.24-0^{\circ}.70$
角分解能(HPD) $2'.0$ $3'.5$

図 2.4: XRTの外観(左)と配置図(右) (The Suzaku Technical Descriptionより)
\includegraphics[width=0.4\textwidth]{figs/det_xrt_photo.eps} \includegraphics[width=0.4\textwidth]{figs/det_xrt_layout.eps}

図 2.5: XRT-I + XISによる点源(MCG-6-30-15)のイメージ(上)とPoint Spread Function (下)(The Suzaku Technical Descriptionより)。左からXRT-I0, I1, I2, I3。
\includegraphics[width=0.8\textwidth]{figs/det_pointsource_image.eps}

図 2.6: XIS各センサーにおける光軸の位置 (検出器座標)
\includegraphics[width=0.4\textwidth]{figs/det_xrt_optaxis.eps}

2.3 XIS

X線検出に用いられるCCD2.5は、半導体検出器を2次元アレイ状に並べたものといえる。CCDのある画素にX線 が入射すると、ある確率で光電吸収が起こる。その結果生じた光電子はエネルギー を失うまで次々とSi原子と衝突を繰り返し、電子・正孔対を作る。生じる電子・ 正孔対の数は、入射X線エネルギー$E$に比例し、およそ $(E/W_{\rm Si})$個とな る(ここで、$W_{\rm Si}$はSiの平均電離エネルギー$\sim 3.65$ eV)。こうして できた電子の集まり(一次電子雲と呼ぶ)を正確に検出することによって、入射X 線エネルギーを知ることができる。また、検出器の位置分解能は画素の大きさ (XISでは$24~{\rm\mu m}$)によって決まり、比例計数管(およそ $100~{\rm\mu
m}$)と比べて優れている。入射X線は空乏層内2.6で吸収されなければ正確なエネルギー測定ができないため、高いエネル ギーのX線の検出効率を上げるには、空乏層を厚くする必要がある。

「すざく」のXISは4台のX線CCDカメラから構成され (図 2.7)、 天体の撮像とX線スペクトルの取得を目的としている。「あすか」に搭載された CCDカメラ (SIS) に比べて、空乏層の厚さが2倍になったため、高エネルギーの X線に対する感度が向上している ($\gtrsim7$ keVで約2倍)。また、CCDの動作 温度を $-90{\rm ^{\circ}C}$まで下げたことで暗電流を押さえ、電荷転送非送 率 2.7 を減少させるなど、様々な工夫が なされている。

図 2.7: XIS検出器の外観 (The Suzaku Technical Descriptionより)
\includegraphics[width=0.6\textwidth]{figs/det_xis_photo.eps}

図 2.8: CCDの断面図 (東海林雅之 修士論文より)。 表面照射型CCD (左)と背面照射型CCD(右)を模式的に示したもの。
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{figs/det_ccd.eps}

XISの4台のセンサーをそれぞれX0, X1, X2, X3と呼ぶ。また、CCDには表面照射 型 (Frontside Illuminated; FI)と裏面照射型 (Backside Illuminated; BI)が ある (図 2.8)。表面照射型CCDではX線を電極側から入射するた め、低エネルギーのX線は電極や絶縁層で吸収されてしまうのに対し、裏面照射 型CCDではX線を電極の逆側から入射するため低エネルギーのX線に対して高い検 出効率を得ることができる。X0, X2, X3の3台がFI-CCD、X1がBI-CCDである。 図 2.9 にXISの模式図を示す。

XISの観測モードは、ClockモードとEditモードという異なる2つのモードから定 義される。Clockモードには、NormalとParallel-sum (P-sum)の2通りがある。

X線の入射により生成された電子雲は一つのピクセルにとどまる場合と、ピクセ ル境界付近に入射して2つ以上のピクセルにまたがる場合とがある。そこで、 XISでは中心が最も波高の高い$3\times3$ピクセルに注目して、スプリットの仕 方で7通りのグレードに分類する2.11。そのうち、解析に用いら れるのはNormal/Burstモードでは、グレード0,2,3,4,6、P-sumモードでは、グ レード0,1,2である。

XISでは軌道上でのエネルギーの絶対精度の測定のために、カメラごとに較正線 源が取り付けられている 。線源はいずれも$^{55}$Fe (半減期2.7年) で、Mn K$\alpha$ (5.9 keV)、Mn K$\beta$ (6.5 keV)の特性X線を出す。較正線源の位 置については、図 2.2に示した。

図 2.9: XISセンサーの模式図 (片山晴善 修士論文; 勝田 哲 修士論文より)。 イメージング領域とフレームストア領域からなる。 一枚のCCDには4つの読み出し口がある。
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{figs/det_xis_config.eps}

2.4 HXD

HXDは、$10\sim700$ keVの広いエネルギー範囲の硬X線をこれまでにない高い感 度で観測することを目的とした検出器である(外観は図 2.10)。 硬X線領域では、天体からの信号は典型的にエネルギーに対してべき関数的に減 衰し、バックグラウンドに対して信号が微弱となる。よって高いエネルギーほ ど、検出器におけるバックグラウンドの低減が精度のよい観測をするうえで不 可欠である。バックグラウンドには検出器の正面から入射するもの、視野外か らシールドを通過して入射してくるもの、検出器に内在するものなどの成分が ある。これらすべてを低減するようにもともと気球実験を通じて開発されたの が井戸型フォスイッチカウンタであり、HXDではこの技術が応用されている。

HXDセンサーの構造を図 2.11に示す。基本となる井戸型フォ スイッチカウンターは16本あり(Wellユニット)、その周りをBGO結晶のアンチカ ウンター(Antiユニット) 20本が取り囲む。Wellユニットの主検出部はPIN型半 導体検出器(厚さ2mm)とGSOシンチレータ(厚さ5mm)を上下に重ねた形で構成され、 10-700 keVという広帯域を実現する。さらにXISと組み合わせると、一つの衛 星で3桁を超えるエネルギー帯域が同時にカバーされることになる。また、主検 出部の周りのシールド部には深い井戸型をしたBGOシンチレータが用いられてい る。主検出部とBGOの反同時計測により、効率よくバックグラウンドを除去する ことができる。各ユニットについて簡単にまとめる。

なお、HXDの光軸はXIS nominal positionに対してDETX方向に$-3'.5$ずれている。

図 2.10: HXDの外観 (The Suzaku Technical Descriptionより)
\includegraphics[width=0.4\textwidth]{figs/det_hxd_photo.eps}

図 2.11: HXDの構造 (The Suzaku Technical Descriptionより)
\includegraphics[width=0.8\textwidth]{figs/det_hxd_schematic.eps}

References


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平成21年8月20日