本章では、「すざく」の実際のデータ解析に即した XSELECT の使用法を述べる。 本章の目標は、XSELECT を通じて「すざく」の cleaned event file から自分の 目的に応じたライトカーブ、イメージ (XIS のみ) およびスペクトルを一通り作 成できるようになることである。
XSELECT の詳細なマニュアルについては以下を参照してほしい。
$ fhelp xselectあるいは XSELECT 上で
xsel> help ?とするとヘルプを参照することができる。 なお、以下の記述は XSELECT Version 2.3 に基づいている。
$ xselectと入力すると、XSELECT が立ち上がり、以下のような表示とプロンプトが表れる。
                  **  XSELECT V2.3   **
 
> Enter session name >[xsel]
ここできかれている session name は、XSELECT がカレントディレクトリに作成
する一時ファイル名の先頭に使われる。これらは XSELECT 終了と同時に消去さ
れるが、session を途中でセーブしたいときは、ターゲット名など、後で見て分
かりやすい名前を付けるとよい。
> Enter session name >[xsel] GC_SRC1ちなみに、XSELECT のコマンドラインでは、[ ] の中はデフォルト値を示す。 プロンプトは以下のようになる。
GC_SRC1:SUZAKU >
GC_SRC1:SUZAKU > read event ae100027010xi0_0_3x3n000_cl.evt > Enter the Event file dir >[./] ./正しく読み込まれると、続いて以下のような表示がされる。
 Notes: XSELECT set up for      SUZAKU
 Time keyword is TIME       in units of s
 Default timing binsize =   16.000
Setting...
 Image  keywords   = X          Y           with binning =    8
 WMAP   keywords   = X          Y           with binning =    8
 Energy keyword   = PI                      with binning =    1
Getting Min and Max for Energy Column...
Got min and max for PI:     0   4095
Got the minimum time resolution of the read data:   8.0000
MJDREF =  5.1544000742870E+04 with TIMESYS = TT
 Number of files read in:  1
******************** Observation Catalogue ********************
Data Directory is: /YOUR_ANALYSIS_DIRECTORY/xis/
HK Directory is: /YOUR_ANALYSIS_DIRECTORY/xis/
        OBJECT      DATE-OBS    TIME-OBS    DATE-END    TIME-END    EDITMODE
      1 GC_SRC1     2005-09-23  07:16:30    2005-09-24  10:39:58    3x3
複数の event ファイルを読み込ませたい場合、
たとえば 同じターゲットの2つの異なる時期の観測について、
それぞれの 3x3 mode と 5x5 mode の XIS のデータを
読み込ませたい場合は、以下のように書くことができる。
GC_SRC1:SUZAKU > read event "ae100027010xi0_0_3x3n000_cl.evt ae100027010xi0_0_5x5n000_cl.evt ae100037040xi0_0_3x3n000_cl.evt ae100037040xi0_0_5x5n000_cl.evt"あるいは上記 event ファイルを列挙したファイル(ここでは evt.lis)を あらかじめ用意しておき、これを読み込ませる方法もある。
GC_SRC1:SUZAKU > read event "@evt.lis"ここでは以下のような evt.lis を読み込ませた。
  $ cat evt.lis
    ae100027010xi0_0_3x3n000_cl.evt
    ae100027010xi0_0_5x5n000_cl.evt
    ae100037040xi0_0_3x3n000_cl.evt
    ae100037040xi0_0_5x5n000_cl.evt
ただし、異なる INSTRUMENT の event files を同時に読み込ませる
ことは出来ないので注意。
GC_SRC1:SUZAKU > set BINSIZE --> set the binsize for light curves DATA*DIR --> set the data directory DATAMODE --> setup Xselect for particular data modes DEVICE --> set the plot device DUMPCAT --> set make obscat to display or not IMAGE --> set the coordinates for the image to sky or det. INSTRUMENT --> set the instrument name MISSION --> set the mission name MKFDIR --> set the directory for the MKF file OBSDIR --> set the observation catalogue directory (default is pwd PHAREBIN --> set the pha bin size PAGEWIDTH --> set the pagewidth for show commands PHANAME --> set the column name for PHA QUIT --> quit set WMAPNAME --> set the column for the WMAP WMAPBINSIZE --> set the bin size for the weighted map XYBINSIZE --> set the bin size for the image XYNAME --> sets the column for images XYCENTER --> set the center for the image XYSIZE --> sets the size of the image「すざく」のデータを取り扱う上でとくに注意すべき変数は以下である。
  BINSIZE       出力ライトカーブの binsize。単位はsec。defaultは 16.0。
  INSTRUMENT    検出器名。すざくでは XIS0, XIS1, XIS2, XIS3 および HXD のいずれか。
  PHAREBIN      出力スペクトルファイルの bin まとめ数。default は 1。  
  XYNAME        使用する座標軸。X Y で 天空座標を、DETX DETY で検出器座標を
                それぞれ指定。 default は X Y。
  XYBINSIZE     出力イメージの bin まとめするサイズ。単位は pixel。default は 8。
各変数がどののような値をとっているかは、
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > show statusの以下の行で確認できる。
*** MISSION *** SUZAKU NONE XIS0 STANDARD ← MISSION INSTRUMENT DATAMODE Time keyword is TIME in units of s Default timing binsize = 16.000 ← BINSIZE Minimum timing resolution: 8.0000 Energy keyword is PI with binning 1 ← PHAREBIN Max and min for PI : 0 4095 Image keywords = DETX DETY with binning = 8 ← XYNAME XYBINSIZE WMAP keywords = X Y with binning = 8各変数に default と異なる値を指定したい場合は以下のように書く。
GC_SRC1:SUZAKU > set binsize 64.0例えば XIS の各 sensor 上で同じ位置からスペクトルを取得したい場合は、 天空座標ではなく検出器座標でリージョンを指定する必要があるので、 以下のように設定する。
GC_SRC1:SUZAKU > set xyname DETX DETY
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > extract curve
…(中略)…
          Total      Good    Bad: Region      Time     Phase     Grade     Cut
         126063    126063              0         0         0         0         0
===============================================================================
   Grand Total      Good   Bad:  Region      Time     Phase     Grade    Cut
        126063    126063              0         0         0         0         0
   in  37052.     seconds
 Fits light curve has   126063 counts for  3.402     counts/sec
今は特にフィルタリングをかけていないので、すべてが Good と判定されている。つまり、読み込んだイベントファイル中の 全 event のライトカーブが作成されたことを示している。 さっそく見てみる。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > plot curve
とすると内部で qdp が呼び出され、作成されたライトカーブが ディスプレイに表示される。横軸は観測開始時刻からの経過時間 (sec)、 縦軸はカウントレート (counts/s)。 ライトカーブでところどころデータが抜けているのは、 cleaned event になっている時点で、地没や SAA の 時間帯が あらかじめ取り除かれているためである。
xsel:SUZAKU-XIS0-STANDARD > filter pha_cutoff 547 1644PI channel は幅をもっているために、隣接する2つの エネルギーバンドで切りたい場合は、 PI channel に重複がないように指定する。 たとえば、HXD-PIN で 15-40 keV と 40-70 keV の二つの エネルギーバンドを切りたい場合は、それぞれ
filter pha_cutoff 40 106 filter pha_cutoff 107 186もしくは、
filter pha_cutoff 40 107 filter pha_cutoff 108 186とする。 もし 2つのバンドの境目で同じ PI channel(上記の例では 107 ch)を指定すると、 PI=107 のエネルギーに対応するイベントは、両方の エネルギーバンドに含まれてしまう。特に 1 ch の幅が 大きい HXD の解析の場合には注意が必要である。
filter をクリアしたい場合は、
claer pha_cutoffでよい。
(1) CURSOR --> タイムリージョンをマウスで指定 (2) FILE --> GTIファイルを読み込ませて指定 (3) MJD --> MJD time で指定 (4) SCC --> SpaceCraft time で指定 (5) UT --> UT で指定本節では (1) による方法を述べる。 まず、extract curve コマンドによってライトカーブが抽出されている 状態で、
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > filter time cursorとすると内部で qdp が立ち上がり、現時点で抽出されている ライトカーブがディスプレイに表示される。qdp プロンプトで
PLT> quitとすると、マウスでタイムリージョンを指定できる状態になる。 表示されているライトカーブの上にカーソルを持っていき、 start time にしたい場所でクリックをすると、ライトカーブ上方に 緑の十字印が表示される。 続いて end time にしたいところでクリックすると、start-end time 間に白い線分がひかれる。この線分の範囲内の時間帯が タイムリージョンとして選ばれたことを示している。 複数のタイムリージョンを指定したい場合は、上の動作を繰り返せばよい。 指定したタイムリージョンの間に不要な時間帯がある場合は、除きたい 時間の start / end time にカーソルを合わせてそれぞれ ``e'' を押すと、この間の時間帯はタイムリージョンから削除される。 その他のコマンドは以下の通り。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > save time cursor good <-- FITS 形式で保存 GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > save goodtime good <-- ASCII 形式で保存それぞれ good.curs_gti (FITS)、 good.gti (ASCII) の名前で保存される。 これらは適宜、別のセッションでも
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > filter time file good.gtiなどとして、 GTI フィルタとして読み込ませることができる。 読み込んでいるフィルタを clear したい場合は
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > clear time cursorとする。GTI ファイルとして読んでいるフィルタは
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > clear time file good.gtiなどとすれば clear できる。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > save curve lc_xis0_3x3.fitsとすればよい。 ファイル名は自分の好きなように付けることができるが 、あとで見ても分かるような名前を付けるとよい。 ライトカーブを qdp 形式で保存したい場合には
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > plot curve PLT> wdata lc_xis0_3x3 PLT> whead lc_xis0_3x3とすると、lc_xis0_3x3.qdp と lc_xis0_3x3.pco が作成される。
PLT> wenviron lc_xis0_3x3で一度に作成することもできる。
タイムリージョンとして、たとえば前節で作成した GTI を 指定する場合は、
xsel:SUZAKU-XIS0-STANDARD > filter time file good.gtiでよい。 一方で、特定のエネルギーバンドで切りたい場合は、 切り出すエネルギーを PI で指定したフィルターをかける。 PI と エネルギーの関係については、第 5.2.2 節を参照。 例えば 2.0
xsel:SUZAKU-XIS0-STANDARD > filter pha_cutoff 547 1643
続いて以下のコマンドで、上記のフィルタをかけたイメージが抽出される。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > extract image
…(中略)…
          Total      Good    Bad: Region      Time     Phase     Grade     Cut
         126063     84548              0       164         0         0     41351
===============================================================================
   Grand Total      Good   Bad:  Region      Time     Phase     Grade    Cut
        126063     84548              0       164         0         0     41351
   in  36936.     seconds
 Image            has    84548 counts for  2.289     counts/sec
Time, Cut の欄の数字は 除外されたタイムリージョンのイベント数および
指定した範囲外のエネルギーを持つイベント数をそれぞれ示している。
続いて
xsel:SUZAKU-XIS0-STANDARD > saoimageとすると ds9 が立ち上がり、作成したイメージを見ることができる。ds9 の詳 細については 第 6 章 (ds9) を参照してほしい。
XSELECT の default の座標系は天空座標 (X, Y) なので、 とくに指定しない限りイメージの XY 軸はそれぞれ (RA, Dec) に沿ったものとなる。 また、イメージの bin サイズ (xybinsize) は default で 1bin = 8 pixels となっている。 これらの値は 第 5.1.3 節で述べた通り set コマンドで 変えることができる。
xsel:SUZAKU-XIS0-STANDARD > save image 2060_8bin_sky.fitsすると、イメージが FITS 形式で保存される。 ファイル名は自分があとで見ても分かるような名前を付けておくと良い。
     GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > filter region src.reg
   とすると、リージョンフィルタがかかる。
   ここで、region file の座標系・bin サイズは、それぞれ XSELECT の
   XYNAME・XYBINSIZE の値に一致している必要がある。
フィルタが正しい位置にかかっているかどうかを確かめるには
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > extract image … GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > saoimageでイメージを見てみるとよい。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0 > extract specとする。取得したスペクトルは
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > plot specで簡単に確かめることができるが XSELECT ではこれ以上のことはできない。 以降の解析は XSPEC を用いて行う。 得られたスペクトルを保存するには
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > save spec src.phaとすると、PI file として保存される。 続いて以下のように 「output のスペクトルを binまとめ するかどうか」を訊かれるが、 binning は XSELECT 終了後に grppha などの FTOOLS を用いて行うことができるので、 この時点では no で問題ない。
> Group ( or rebin ) the spectra before outputting? >[no] no Wrote spectrum to src.pha
grppha の使い方については 8 章を参照してほしい。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > extract eventsで event file を作成できる。 保存は以下。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > save event filtered_evt.fits > Use filtered events as input data file ? >[yes]最後のプロンプトで yes と答えると、以後のセッションでいま保存した event file を 入力 event file として読み込んでくれる。
GC_SRC1:SUZAKU-XIS0-STANDARD > extract allで、一度にライトカーブ・イメージ・スペクトルを抽出できる。ただし3つとも 同一のフィルタ条件で描かれることに注意(これが第 4 章 での方法である)。
GC_SRC1:SUZAKU > $lsなど。読み込ませるファイル名が分からなくなったときなどに便利。