「すざく」搭載観測機器(硬X線検出器)の観測開始
−ケンタウルス座の巨大ブラックホールの観測成功−

我々が、東京大学、JAXA、広島大学、金沢大学、理化学研究所、
青山学院大学、大阪大学、スタンフォード大学
の研究者と総力を
あげて開発してきた日本のX線天文衛星「すざく」搭載の硬X線検
出器(HXD)は順調に起動し、8月19日、はじめて天体からの信号
を検出することに成功しました。

宇宙航空研究開発機構が平成17年7月10日12時30分(日本標準時)に
内之浦宇宙空間観測所から打ち上げた第23号科学衛星「すざく」(ASTRO-E2)は、
X線CCDカメラによる観測開始に引き
続き、3つ目の観測機器である硬X線検出器 
HXDHard X-ray Detector)の立ち上げを無事に行い、8月19日には、距離1500万光年
にある楕円銀河「ケンタウルス座A」(図1)から信号を検出することに成功しました。
  これにより
HXDは、所期の性能をもつことが確認されました。

 

図1: 地上から光で見た楕円銀河ケンタウルス座A。中央部に見える暗黒の帯は、 星間塵により星の光が遮られるために生じる。

 

 

 

ケンタウルス座Aの中心には、太陽の数千万倍の質量を持つ巨大ブラックホールが
潜んでいると考えられ、そこにブラックホール周辺のガスが吸い込まれる際に、光、X線、
ガンマ線などが強く放射されると考えられています
。図2は、今回HXDにより検出された
放射スペクトルを、先に観測を開始したX線CCDカメラのデータと合わせて示したもので
す。HXDにより、ブラックホールに落ち込むガスの発する線やガンマ線(注)を検知し
ており、この領域での感度は極めて優れています。また、
高いエネルギーの放射ほど
ブラックホールの近くで発生するので、HXDでの広いエネルギー範囲のデータを用いる
ことで、ガスがブラックホールに吸い込まれてゆく様子が、従来にない精度で明らかにな
ると期待されています。

 

 

図2: 「すざく」が観測した、ケンタウルス座AからのX線・ガンマ線スペクトル。赤と青のデータは、HXDを構成する2種類の検出素子のデータで、黒は同時に得られたX線CCDカメラのデータ。 低エネルギー側で放射が弱くなるのは、星間ガスなどの吸収のためである。鉄原子の出す特性X線も見える。

 

HXD(図3の黒い箱の部分)は、JAXA東京大学、広島大学、
埼玉大学、金沢大学、理化学研究所、青山学院大学、大阪大学、
スタンフォード大学などが、15年の歳月を費やして作り上げた、
独創的な国産の観測装置です。この観測装置は、
硬X線からガン
マ線にかけての広いエネルギー域における感度が世界最高であり、
宇宙で見られる種々の高エネルギー現象について、これまでにな
い精度での観測を可能にするものです。

今回の観測成功により「すざく」は、低エネルギー域を受け
持つXCCDカメラと、高エネルギー域を受け持つHXDという
2組の装置を擁し、非常に広いエネルギー範囲で観測を行える
世界で唯一の高エネルギー天文衛星として姿を整えました。

今後は全世界の研究者から観測提案を受けつけ、ブラックホ
ールへの物質流入、超新星爆発における元素合成、宇宙線の
起源など、多くの謎を探るための観測を進めて行きます。

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